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ピルツを指しモダンに驚かないために

Opening
序盤学習との向き合い方

みけねこです。先日Rapidレート1700に到達しまして、それまでの経験を少しシェアできたらと思ってこれを書いてます。Rapid1700というのは去年の8月にチェスに本格的に力を入れようと決めた時に最初に立てた目標でした。
具体的には主に序盤学習をしました。小さい頃からルールだけは知っていた私は、たまたまYouTubeで見つけたVienna Gambitを武器に同レートの相手を欺いてレート1500くらいまで到達したものの黒番で何を指したらいいのかわからなくなってしまいました。それが序盤学習のきっかけです。当初YouTubeのチェス動画で様々なオープニングを知り、初めはこれら全部知ってないと強くなれないのかといきなりモチベーションを失ってしまったことを覚えています。もし初心者で同じように思っている方がいるのであればその必要はないことをここで述べておきます。私の知り合いにほとんど序盤を知らないにも関わらずレート1800の方がいます。ただ、序盤を学習したことの大きな利点はミドルゲームのプランを立てやすくなったことでした。各オープニングにはコンセプトとなる攻撃が存在し、それらを実行するために手を考えるようになったというのが大きな変化でした。それまでの私のように、初心者の多くは指したい手がわからなくなってしまうというのがミスに繋がる大きな要因の一つではないでしょうか。序盤を知ることで具体的なプランのあるチェスがさせるようになるかもしれません。しかし序盤学習は向き合い方を間違えると危険ということも書いておきます。

序盤学習は序盤だけの学習ではない
初心者の多くも様々なオープニングに魅了される方は多いと思います。個人的にオープニングは遊戯王のデッキを思わせ、新しいものを試す際はわくわくします。ただし、組んだ自分のデッキの回し方を知らないと勝てないように、自分の手の意味を知らないで指す序盤は全く意味のないものになってしまいます。

初心者の方がシシリアンを指しているところを見たことがあります。初手c5は相手のd4を牽制する手であり、ほとんどの場合相手がd4を指せばc5ポーンで取り除きます。より中央にある相手のdポーンをcポーンで交換することがシシリアンの強みでありコンセプトでしょう(例外はあるかもしれませんが)。しかしその方はc5がシシリアンということしか知らないためdポーンを取りませんでした。また、私が対面で対局した方でKIDやピルツを知っているにも関わらず私が指したモダンに驚いた方がいました。この三つのオープニングはNf6を指しフィアンケットを組むというのがテーマの一つであり手順前後で同じ形になることもよくあるでしょう。もちろん必ずしもフィアンケットを組むとは限りませんし、手順が違えば相手の指し手も変わります。ただ、少なくともそういう駒組があることを頭に入れて指すべきです。私が言いたいのはモダンを知ってるかどうかということではなく、初手g6はフィアンケットの準備の手であり、KIDやピルツを知ってる方であれば驚くような手ではありません。その方はボードの上でひたすら駒を手で動かして序盤を暗記すると言っていました。それはおそらく間違った学習法ではないかと私は思います。序盤学習の意義はミドルゲームのプランを立てること、またポーンストラクチャーの理解はエンドゲームにも大きく関わります。もちろん最初からそこまで深い理解で指せるわけではないですが、暗記に頼って序盤を完璧に指すことより手の意味を理解しようとすることの方がはるかに重要です。上級者の方がよく棋譜並べを薦めているところを耳にしますが、私は最近になってようやくその本当の意義がわかった気がします。とにかく序盤学習は全体像が重要であるというのが私の意見です。

Chessableとスランプ
黒番で何を指したらいいのかわからなかった私は長らく自分に合いそうなオープニングを探していました。e4に対してのe5は序盤の基本が詰まっており初心者にもよく薦められますが、指しこなせるのはむしろ上級者ではないかと感じています。というのも1...e5を指すことによって相手にしなければならないオープニングはかなり多いからです。イタリアン、ルイロペス、スコッチ、ポンチアニ、ヴィエナ、ビショップオープニング、キングスギャンビット...そしてエヴァンスギャンビットやスコッチギャンビット、ヴィエナギャンビットなど各オープニングにも攻撃的なギャンビットラインが存在します。序盤の主導権を握りたい自分にとってe5はいまだに難しいと感じます。そこで去年の11月、ブラックフライデーをきっかけにChessableを始めました。私が選んだのはフレンチです。自分が基本的に閉じた局面を好むことに気がついたというのが主な理由です。それまで白マスビショップが使えない窮屈なオープニングだと感じていましたが、指し方次第でかなり強力なオープニングであることを知りました。むしろ明確な弱点はポジションを改善するというプランを立てる指標にもなりました。これは私のお気に入りのラインです。

https://lichess.org/study/QdSOLSZa/UvFXrw9Q

しかしながらChessableで学んだことを活かし、いざレートを上げようとしたところスランプに陥ってしまいました。私が思うにあれはレパートリー中毒でした。Chessableで学んだレパートリーにしか安心感を持てず、自分で考えてさせていなかったのではと考えています。もちろんd4に対してフレンチを指すことはできないわけで、それだけで対局中の集中力を失うことにつながりました。そして一番の問題は相手の手に意識がいかず自分が何を指すかだけしか考えてなかったことでした。これは自分のChessable との向き合い方に大きな問題がありました。

Move Trainerに懐疑的になった
私が自分の手にしか意識がいかなくなった最大の要因はMoveTrainerです。Chessableはすごく有用なツールですが、合う合わないが大きい気がします。Move Trainerは私には全く合いませんでした。簡単に説明するとMoveTrainerはまず始めに説明に従って手を動かし、一通りすると確認のクイズが出て、間違えた問題は最後に3回繰り返す、というのがデフォルト設定の仕様です。一見すると効率よく覚えられそうなシステムですが、見たばかりの手順を繰り返すのは簡単で、つい集中力を欠くと相手の手を見ずに指す作業と化してしまい、次のレパートリーに移った際にはさっきとの相手の手の違いがわからなかったりなんてこともありました。間違えた箇所を3回繰り返したところでそれも作業なので頭には全く入ってません。Reviewをすると全く覚えられていない自分にイライラしてしまい毎日コンスタントに続けることができませんでした。そもそも私は中高生の頃から暗記が大嫌いでした。それは記憶力がないのとは違い、自分なりの理解と結びつかない限り脳が覚えることを拒絶するといった感じでしょうか、なのでテストで点数を取るということに対して勉強の効率はあまりいい方ではありませんでした。しかし、一度理解したことは記憶に定着しやすいとも感じています。

https://lichess.org/study/QdSOLSZa/w0sySlJv#last

例えばこのポジションですがViennaにとってBc5はキャスリングを阻害する厄介な駒であり本来はナイトで取り除きたいというのが心境です。しかし過去に相手にa6とビショップの逃げ道を作られた局面でかなり困ってしまいました。そこで確認したレパートリーは実際に困ったという経験と結びついておりそれ以来直面していないにも関わらず今も覚えています。
https://lichess.org/study/QdSOLSZa/K0KpIGVw

復習ツールとしてのChessableという提案
Chessableは合う合わないはあれど有用なツールであることに変わりはありません。そこで私なりのChessableの使い方を紹介します。まず動画と一緒に購入することが重要だと考えています。もちろん高いのですが、そもそもChessableはマスターが教えている動画としてだけで価値があります。そして基本的に初めは動画を見るだけです。(モデルゲームは随時確認すると良いと思います。)そして動画を見たなんとなくの印象で非レート戦で指します。そして指し終わった後にToolのOpening Explorerで自分が指した棋譜と比較します。余裕があれば周辺のラインも確認するといいでしょう。これを繰り返すことによって自分が実際に考えて指した経験と結びつきやすくなると考えています。また、自分がよく対面するラインを多く学習できるため効率も良いのではないでしょうか。マスターのレパートリーと違くてもいいと思います。私はこの方法でしばらくレート戦を止めて非レートで自分より0 ~ +500レートを相手に練習をしたところ、レート戦に戻った際には16勝4敗2分けという戦績で一週間で100レート上げることができ、無事スランプを抜け出せたのかなと安心しています。これらの経験がこれから序盤学習をする際の参考になれば幸いです。

余談ですがレート1700という目標に達した際にはYouTubeの動画を作ってみたいと思っていたので早速始めてみました。チェスというインターナショナルなゲームに対して言語を使わないというコンセプトで作ってみました。また自分がチェスに感じる大きな魅力であるクラシカルな雰囲気を親しみやすく表現したつもりです。言葉の説明がない部分がつまらなく感じる人も多いのではないかと懸念していますが、チェスの本質の面白さを伝えられるよう棋力を上げることに努めようと思います。
フレンチ指したての頃のへたっぴな差し回しのものですが思い入れがあるのでよかったら観てみてください。
https://youtu.be/-qcYYkFFa78